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メトホルミン : ウィキペディア日本語版
メトホルミン

メトホルミン()は、ビグアナイド系薬剤に分類される経口糖尿病治療薬の一つである。塩酸塩が製剤化されている〔。日本での商品名は「メトグルコ®」「メルビン®(販売中止)」(ともに大日本住友製薬)や「グリコラン®錠」(日本新薬)が先発品として上市されている。後発医薬品としては「メデット®」(トーアエイヨー)や「ネルビス®」(三和化学)などがある。(添付文書情報検索画面 でメトホルミンを検索出来る。)
== 薬理 ==
メトホルミンが糖新生抑制作用などによって糖尿病に効能をもつことは開発当初から知られていたが、その薬理については複数の作用が考えられている。メトホルミンを含むビグアナイド系薬の直接の標的としてはミトコンドリアの呼吸鎖複合体Iが知られ、その活性阻害により、結果的に細胞内のAMP/ATP比を増加させて細胞内のエネルギーバランスを変化させる
。このため主に肝細胞において、細胞内のエネルギーバランスのセンサーである(AMPK)を介した細胞内シグナル伝達系を刺激することにより、糖代謝を改善することが示唆されている〔。またAMPKによりリン酸化されて活性が調節される基質分子には、脂質の産生に関わる様々な因子も含まれる((ACC1,2)、HMG-CoAレダクターゼ、転写調節因子SREBP-1など)。このため、メトホルミンはAMPKによる基質分子のリン酸化亢進を介し、糖新生だけでなく中性脂肪やコレステロールの合成も抑制し、脂肪肝や血中の脂質レベルの改善にも効果を示すものと考えられている。さらに、AMPKによる脂質産生抑制は結果的にジアシルグリセロール産生を抑制するため、プロテインキナーゼC(PKCε)によるインスリン受容体に対する負の制御を解除し、インスリン抵抗性を改善することも示唆されている。
一方マウスを用いた研究では、やその活性化に関わるの遺伝子を欠損させてもメトホルミンによる糖新生抑制などが見られたことから、メトホルミンの作用にはAMPKを介さない他の経路も寄与することが示唆されている。実際、ビグアナイド系薬は、グルカゴンによる血糖上昇作用(肝細胞でのグリコーゲン分解・糖新生促進作用など)に対し、AMPK非依存的に抑制作用を示すことがマウスにおいて明らかにされている。なおその作用機序は、メトホルミンのミトコンドリアでのATP産生抑制作用により上昇した細胞内AMPが、アデニル酸シクラーゼによるサイクリックAMP(cAMP)産生に抑制的に作用することで、cAMPをセカンドメッセンジャーとするグルカゴンの細胞内シグナル伝達(経路)を負に制御する、というものである。
また呼吸鎖複合体I以外のメトホルミンの新たな作用標的として、2014年にミトコンドリア内膜のグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ2(mGPD)が同定された。同報告によると、マウス、ラットを用いた実験において、メトホルミンは肝臓でmGPDを非競合的に阻害し、グリセロールリン酸シャトルを阻害する。このため細胞質側ではNAD+に対してNADHが優位となり、NAD+を利用する乳酸脱水素酵素が阻害されるため、乳酸からのピルビン酸供給が抑制される。またmGPDによるジヒドロキシアセトンリン酸の産生も減少する。これらの結果、ピルビン酸およびジヒドロキシアセトンリン酸からの糖新生が抑制され、血糖値を低下させることが明らかとされている。このため、これまでメトホルミンの作用機序の中心と考えられたAMPKの活性化は、グリセロールリン酸シャトル抑制による内呼吸阻害の結果の一つとも考えられる。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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